夜というのは、ときに妙にやさしく、人の心をほどいてしまう。紺の部屋を訪れた黒髪の少女めいた存在。みすずは、まるで影が人の形を取ったような静けさと妖しさをまとっていた。
サークル「不可不可」の『インスタントサッキュ』は、彼女の声に導かれて、自分でも気づかなかった秘密を手渡されてしまう物語だ。清楚でありながら、どこか挑発めいた動き。心と理性をくすぐる夜の気配が、ページの向こうで静かに息づいている。
不可不可のインスタントサッキュ

タイトルは「インスタントサッキュ」。サークル名は不可不可。
誰かを思い浮かべながら読む物語が欲しい人へ。黒髪の清楚な雰囲気に惹かれてしまう人へ。ただ刺激的な展開を求めるだけでなく、夜の静けさの中でそっと心をくすぐられる感覚を味わいたい読者に、この作品は驚くほど合う。
みすずのエロキュートな仕草は、派手ではないのに胸の奥まで響き、気づけば惹きつけられている。秘密を優しく暴かれる感覚を味わいたい君へ、そっと手渡したい一冊だ。
サキュバスが触れる人の秘密と心の奥の扉
みすずは、単なる妖艶な存在ではない。彼女が紺に差し出すのは、身体ではなく変身という名の距離感だ。好きな人の姿を模した影のように、みすずは紺の世界へそっと入り込んでくる。
その声は、さざ波のように静かなのに、抵抗できないくらい甘い。清楚だけれど、どこか危うい仕草。そんな矛盾が作品全体の空気をふわりと漂わせる。
サークル不可不可の作品らしく、キャラの所作の美しさが繊細に描かれ、読者は自然と紺の視点へ引き寄せられる。理性がほどけていく感覚と、心の秘密を見透かされるような余韻が、読後まで長く残る。


